本を出す側の思い(昨日のつづき)


その重要なことのひとつは、赤木さんの問題提起は彼個人の問題というよりも、彼と同じような環境におかれた多くの若者がいま抱いている思いを、たまたま筆のたつ赤木さんが代弁したのではないか、ということです。


まぁ、単純に「若者」といっても、生まれ育ちや暮らす場所などが千差万別であることは、いうまでもありません。赤木さんとまったく同じような環境で育ち、同じような問題意識を持っている人が、いるとも思えません。とりわけ、世代が近ければ、共感の度合いが高くなり、世代が離れれば、共感の度合いが低くなるかもしれません。


それを認めたうえであっても、赤木さんの文章には、若者が抱える諸問題を考えるためのフックがたくさん用意されているように思えました。ある若者は、「希望は戦争」というフックに引っかかり、別の若者は、非正規雇用の悲惨な現状というフックに引っかかる……、という具合に。


そう考えてみると、「論座」4月号で見られたように、赤木さんの論考に対して「知識人」が応答をするということは、ちょっと極端にいってみれば、日本に十万単位、あるいは百万単位でいるかもしれない若者に対して応答をするのと、似たような行為になるでしょう。しかし、「知識人」の多くは赤木さん個人に説教をするだけであり、彼らには赤木さんの背後に存在する数多くの若者の姿が見えていないんだなあ、とつくづく思ったわけです。


かといって、数多くの若者の姿が見えない「知識人」を、ことさら攻めるつもりはありません。だって、まわりの学者さんや職業物書きの人たちを見ていると、あまりに忙しい人が多く、若者の実状にまで目配りをする時間などない人がほとんどですから。そうなると、問題になるのは、若者の姿が見えなかった「知識人」らが、赤木さんのような若者の存在を知った「あと」に、どのようなアクションを起こすのか、ということなんだと思います。


その後、「論座」は7月号の「格差、保守、そして戦争」という特集で、雨宮処凛さんや中島岳志さん、萱野稔人さん、高原基彰さんら若手の論客を起用することにより、赤木さんの問題提起に対する「まともな応答」を試みています。そして、彼らは、赤木さんに対する賛否はいろいろあるものの、4月号で起用した応答のラインアップよりも、たしかに真っ正面から応答していたと私は考えています。


いずれにしても、そんな経緯で進行していった赤木さんに関する議論を横目に見ながら、赤木さんの論考を彼個人の問題としてスルーしてしまうわけには、ちょっといかないんじゃないのかなぁ、などと思案しているうちに、私は赤木さんに「本を出しませんか」という連絡をしていました。


雑誌に掲載されたのはいいけれど、基本的に雑誌というのは一過性の媒体なので、掲載された言説がなかなか残りません(一部の図書館や大宅文庫などには残りますが)。ならば、「論座」の論考を補完しつつ、書き込めなかった視座をくわえたうえで、赤木さんの思考を書籍というかたちで残すのがよいのではないか、と思いました。


もう一点、付け加えるとすれば、そうやって書籍で残すことによって、あるフリーターが2007年という年を、どのような気分で過ごしたのかという「時代の記録」になるのではないか、と考えたことです。ここ数年、1968年前後をテーマにした本がたくさん刊行されていますが、それらの多くは「時代の気分」を記述したものだと思います。


赤木さんの「気分」が、いったいどれだけの人たちに共有されるのかは、私にもよくわかりません。また、その「気分」が、フリーターの当事者である人たちの、つらい現状の改善にどれだけ役立つのかもわかりません。わからないんですけれど、なんとなく、上記のようにフックがたくさんある文章なので、けっこう多くの人に「気分」が共有されるような気もします。さらに、その「気分」が多くの人に知られ、賛否両論を含むかたちでの議論がすすみ、なにかしらの(参加と離脱が自由な)ムーブメントが起きるような気もします。


「気もします」を言い換えると、「勘」とでも言いましょうか。「勘」だから、当たるときもあるし、はずれるときもあります。それを承知のうえで、赤木さんと私は、フリーターの書く「時代の気分」を書籍として世に送り、あわよくば本が順調に売り上げ、印税もしっかりと払い、いつもよりちょっぴり嬉しい正月を迎えられたらいいなあ、なんて思っているわけです。


最後になりましたが、実際に原稿を読んでみた感想を。赤木さんには、人に読ませる筆力があると思います。なによりも、自分の生き様をさらけだしたうえで、自分の頭で考えて文章を記述しているので、飽きずに読みすすめることができました。もちろん、本や雑誌からの引用も多数ありますが、それらを自分の経験と照らし合わせ、咀嚼(そしゃく)しているので、最終的には引用されたものではなく、赤木さんの声が伝わってくるんですね。


赤木さんの文章を読むことにより、読者が何かしら「はて」と思っていただければ、私としては嬉しいかぎりです。「はて」と思うことが、何かに気づくことにつながり、それこそが赤木さんが本のなかで展開する「自分の頭で考える」ということにもつながっていくんじゃないのかなあ。そして、この単著が赤木さんの次の仕事につながれば、なおよし。


とりあえず、そんな感じで、赤木さんの本をつくっています。
ではでは。


追記1… 当ブログのサイドバーにある新刊の『予約受付中』は、赤木さんのアフィリエイトとなっています。クリックして、アマゾンドットコムにて『若者を見殺しにする国』をご予約いただくと、赤木さんに正月の餅代をプレゼントできます。「サトウの切り餅」くらいのささやかな餅かもしれませんが(笑)。


追記2… 『若者を見殺しにする国』の本体価格は1500円なので、アマゾンドットコムで購入すると送料がかかりません。