ロブ@大月さんの書評


ロブ@大月さんによる『若者を見殺しにする国』の書評です。
ご本人の承諾はいただいております。

赤木智弘著『若者を見殺しにする国』を読んで

ロブ@大月(フリーライター



この本は、我々の世代の分析としては希有な本である。
私と彼は、年齢も、名前も(ともひろ)、生まれ(北関東)も一緒。


書かれている内容は、よくわかる。否、この感覚は、35歳から29歳くらいまでしか実感としてわからないかもしれない。


希望は戦争。まさに、僕がオウム事件の時以来思っていた言葉。
僕もフリーライターだの、ノンフィクション作家だの名乗っているが、結局は、フリーターと変わりはない。
それなのに、結婚していて、子どもが二人いる。
しかし、赤木氏が指摘するように、現在のところ、僕と妻の親が死んだら、ウチは、一家離散か、一家心中だ。


そもそも、弱小フリーライターに、貯蓄などない。
緊急の時は、親に頼ってしまう。
しかし、僕の父親も60歳。
本当は定年なのに、子ども3人が実家を継ぐ意志がなく、長男の僕は、フリーライターで親に支援する金もない。
次男は、就職したのに、辞めて、大学院に行って、未だ就職決まらず。
妹は、保育士。唯一、家に金を入れているが、兄二人の重責をスライドさせられて、「仕事辞めて、数年引きこもりたい」と言い出した。


フリーライターになってからも、コンビニのバイトや家庭教師・塾講師のバイトで家計の足しにしてきた。
コンビニのバイトで知り合った弟分の男は、29歳。独身。
しかし、税金納めて、パソコンをキャッシュで買う余裕がある。


色んなフリーターがいる。派遣社員がいる。
そして、出版界も、雑誌専属のライターとフリーライターがいる。
前者は、正社員、後者は、フリーターか派遣社員に当たる。


安定職である正社員があぐらを掻いている状態である以上、我々の超就職氷河期時代の人間の中途採用はあまりない。


スキルを磨くといっても、大きなシステムの中でハツカネズミのように回る僕たちは、同じ毎日を、同じように動かないと、すぐに職を失う。


だから、戦争を待ってる。
赤木氏の戦争の意味は、必ずしも国家間の戦争を意味しないだろう。
今の、閉塞的な雇用システムを一気に打破するには、法改正では無理なのだ。
誤解を承知で言えば、北朝鮮にドカンと核爆弾かテポドン・ノドンを打ち込んでもらった方が、社会は混乱し、新たな秩序形成する際に、立場がシャッフルされる。


泣かぬなら、殺してしまおうホトトギス


何となく僕たちの世代は、高校まで生きて、バブル経済がはじけ、大学に入学しても、就職先はほとんどなし。
大学名を伏せてのエントリーですら、実は学閥主義。
大学ごとに面接された。
そして、10年。団塊世代の定年退職によって、新卒雇用は活発になったが、中途採用は狭き門のまま。


僕だって、弱気になることもある。
うつ病の妻と、6歳と1歳の子供がいるのに、就学準備すら単行本の収入待ちの状態。
単行本が出ることになったからいいが、なかったら、親たちに頼るしかない。


これは、ウチに限らず、僕らの世代で子供たちの保育園に通わせている親は、同じ状況なのである。


僕も、一冊目は好運にも注目されて、インタビューも様々な雑誌に載った。
しかし、その後は、零細企業も真っ青の収入状態で、それなりの原稿料をもらえる雑誌で書くには、あと8年は待たねばならない。


自殺も考えた。
子供がいなければ…。
妻がいなければ…。
家族が自分と出会うことがなければ…。


そんな、絶望の先に福音があることを祈り続けるしかないのだ。
何でも書き続けるしかないのだ。
我々の諦念、ルサンチマンがこの本には凝縮されている。
内容を批判するより、実情を受け入れて欲しい。
評論家の意見なんか毒にしかならない。
政府の役人が、この本を読んで内容を痛感してもらいたいと切に願う。


もちろん、無理だとわかっている。
タイゾーが、赤木氏と対談したって、何も変わらない。


やはり、何かが変わるには立ち上がるしかないのだろうか。
僕なんぞでよければ、同世代として援護射撃をしたい。
自分がどこまで落ちていたか、頭の中で整理できた。
そして、僕も現場感覚で文章を書き続けていきたい。


赤木氏は、第二作目がキーになると、ジャーナリストの武田徹が言っていたが、そんなの関係ない。
雨宮処凛を越える、深い頭を持つ、影の現場主義の言論をこれからも期待したい。

赤木智弘はシャア・アズナブルだった! 

「赤だけに、」というわけではありません。昨日、反戦と抵抗のフェスタに行ってきました。もちろんデモになんて参加しません。赤木さんと二人で引きまくりでしたよ(赤木さんはぼくと谷川さんしか知り合いがいなかった模様。ちなみに僕はいい意味で頭のおかしいマイミクが二人いました・・・)赤木さんが「僕はテレビのほうが面白い」といい雨宮さんが「私はデモのほうがおもしろい」と言ったのは対照的でした。

赤木さんの話を聴いてて特に目新しいことはなかったのですが*1、一つ重要な問題に気がついたのです。それは僕と赤木さんの「希望は戦争」という言葉の理解の違いです。僕や『日中戦争下の日本 (講談社選書メチエ)』を書いた井上寿一先生の理解では「希望は戦争」とは総力戦への対応としての富の再分配*2を想定していたのに対し、赤木さんは「焦土」を望んでいたんですね。みなが平等に苦しむ社会においてはそれなりに貧者が生きる場所が実現する*3で似たようなこと言ってた人がいたと思い出したのがシャア・アズナブルである。

 『逆襲のシャア』においてシャアは何故アクシズを地球に落とそうとしたのか?以下引用*4

逆襲のシャア 劇場版

このコロニー、スウィート・ウォーターは密閉型とオープン型をつなぎあわせて建造された極めて不安定なものである。しかも、地球連邦政府が難民に対して行った施策はここまでで、入れ物さえ造ればよしとして彼等は地球に引きこもり、我々に地球を解放することはしなかったのである!!

逆襲のシャア ベルトーチカチルドレン

・・・このコロニー、スウィート・ウォーターは、過去の宇宙戦争の被害を受けた難民を収容するために、急遽、建造されたものである・・・しかし、地球連邦政府が、難民に施した施策はここまでであった。容れ物さえ作れば、あとは、地球に引きこもり、我々に地球を解放してはくれない・・・


逆襲のシャア ハイストリーマー

我々のコロニー、スウィート・ウォーターは、密閉型とオープン型をつなぎ合わせて建造した急造コロニーである。それは、過去の宇宙戦争の被害を受けた難民を収容するために、急遽、建造されたからである。しかし、このコロニーがあるということが、我々の悲劇を象徴している!
しかし地球連邦政府は、そんな戦争難民の心根など知らず、住むコロニーを与えれば、すべての贖罪はすんだとして、我々の存在を忘れた。以後、彼等は、地球に引きこもり、コロニー内の窮状も理解せず、我々に、地球を解放もしてくれない。わたしは、アクシズをスウィート・ウォーター再建のために提供してもらうことを、地球連邦政府に申し入れた。しかし、その回答は、すでに諸君も知っているとおりである。彼らは、莫大な代償を要求した。今後、五十年にわたって、我々は、アクシズ購入代金を支払わなければならない!


シャアの問題意識は赤木さんと大きく重なるのだ。戦火をかぶった地球圏において連邦政府は復興のための有限な資源を地球に投下し、スペースノイドのことを顧みなかった。ならば地球にアクシズを投下し寒冷化させ人が住めなくし「廃墟の下での平等」を実現しようとしたのである*5

*1:後ろのほうで「おまえが戦争に行け」とつぶやいてるおばさんには感動しましたがw

*2:http://d.hatena.ne.jp/t-akagi/20070915

*3:言う前にいっときますが、「戦争によって儲ける連中もいただろう!」とか「独占資本!」とかいう批判がくるかもしれませんがそうゆう例外はいつの時代にもいるんです。

*4:http://www.oct.zaq.ne.jp/afakc406/syaaenzetu.htm

*5:

評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)

評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)

[lelele]=書評= SIGHT


「SIGHT」冬号(ロッキング・オン)の「日本一怖い!! ブック・オブ・ザ・イヤー2007」に、これも高橋源一郎さんの選書として取りあげられています。p126からp128です。
こちらは高橋さんと斎藤美奈子さんの対談形式で3ページ。

赤木さん、週刊SPA!に載る。


本日発売の週刊SPA!に赤木さんへのインタビューが掲載されています。

タイトルは「エッジな人々・フリーター赤木智弘 左翼論壇に突如登場し、大論争を巻き起こしたフリーターの正体とは? 僕にとっての“希望”は「戦争」が起きること」です。

中吊りにも載ってます。